色づきだした花に恋をした







久しぶりに会ったリタっちの髪はボサボサに伸びていた。

色気ないわねぇ、なんて笑ってられるのが今のうちだなんて今の俺様は全く思ってなかったんだけど。







「なによ、うっさいわねぇ」

色気ないって言われてむすっとしてるリタっちに会うのは半年ぶり。心臓のメンテで立ち寄ったリタっちの家はやっぱりぐちゃぐちゃであの旅から3年が経ってリタっちも18になるってのに恋人も出来ないってのは変な話だってずっと思ってたけど、なんとなく納得した気がする。

欠片も色気がない。

顔だってすっごく可愛いし、真っ直ぐな翠の瞳なんかも魅力的だし、口は悪いけどたくさんの優しさを持ったリタっちは多分この人間としての生活を疎かにすることがモテない原因だと思う。

通された部屋の椅子に座ったら、とっ散らかったキッチンから珈琲とココアを持ったリタっちがやって来た。
赤と青のペアのマグカップはきっとリタっちは何の意識もしてないんだろうけど恋人同士のそれみたいだなぁとぼんやり思った。

「さ、早くやっちゃいましょ。あんただって忙しいでしょ」

「いや、そうでもないのよ。ちょっと休みもらって来たから」

「そうなの?」

「そそっ。しばらくはリタっちを観察してようかなぁと思ってこの町の宿もとってきたから」

「キモい」

「キモいって…」

「でももったいなくない?宿なんて。あたしのうちに泊まればよかったじゃない。ベッド空いてるわよ」

「リタっちの隣がってこと?」

「ち、違うわよバカ!あたしはまだ研究とかあるからベッド使わないって意味」

真っ赤になったリタっちににやにやしながら、それは寝てないってことねって頭の中でため息を吐く。

恋より研究ってか?
悲しいわねぇ。

「てわけで、時間はあるわけよ。だからさ、その髪」

「髪?」

「研究に邪魔じゃない?結わえたげよっか」

「いいわよ。適当に切るし」

「まぁたリタっちはそういうことする!女の子なんだから、髪ぐらいちゃんとしなきゃモテないわよ?ほら、ここ座る」

立ち上がって、さっきまで座ってた椅子を指差したらリタっちはめんどくさそうにしながら俺様が指差した椅子にちゃんと座った。
いい子なんて言ったら子ども扱いすんな!って怒られそうだから黙っといて、自分の髪を縛るために持ち歩いてる櫛と予備の髪ゴムを取り出す。

「おっさんの癖に櫛なんか持ち歩いてんの?」って嫌な顔して聞かれたから「仕方ないでしょ」って言いながらリタっちの髪に櫛を入れる。
そうそう。仕方ないの。いきなりシュヴァーンになれって言われた時にこの強情な癖っ毛はなかなかストレートになってくんないんだから。

足をバタバタさせて暇そうにしてるリタっちの髪は失礼かもだけど見た目と違って案外さらさらだった。
それにちょっとびっくりしながら、髪を無事真っ直ぐに整え終わって髪ゴムを片手の手首につけたまま軽くお団子に結んでやるためにひとつに纏める。

指先に感じる髪の毛の柔らかさとか細さに今までリタっちから感じたことのない色気ってやつを感じながら髪を持ち上げたとき、鼻を掠めた甘い香りに柄にもなく心臓が大きく鳴って手首がびくって動いた。

「どうしたのよ」

「いや、リタっちなんか香水つけてる?」

「つけてないわよ。匂いがするならそれは多分シャンプーね」

「シャンプー?」

「この間エステルが遊びに来たときお土産に持ってきてくれたのよ。ちゃんとお風呂に入らなきゃダメだって」

「そりゃそうでしょうよ」

苦笑しながら、髪を纏めているうちに、その香りに酔ったような気分になってきた。

今まで女として見てこなかったリタっちを抱き締めたくなるなんて馬鹿げてる。
男なんて所詮そういう生き物よね、って思ったとき何か違うと感じた。

お団子にしたことによって覗いた首筋の白さに思わず視線をそらした時、やっぱりリタっちに恋人が出来てなくてよかったって感じてた。

「リタっち」

「なによ」

「綺麗ね、リタっち」

「は?」

怪訝そうな顔で振り返ったリタっちの目は半分閉じてて、こっちを睨むみたいな目付きだったけど、その視線にさえ胸が締め付けられた。

ああ、相当やられてるって今更自覚して実感するなんて笑える話だけど、どうかこのまま誰もリタっちの色気とか魅力に気づかないでモテないリタっちで居て欲しい。

そんな勝手なことを願った俺様は次の日、様子を見に来たリタっちが床で寝てるのを苦笑いした後にリタっち宛のラブレターを見つけてしまって激しく動揺した挙げ句、口が滑ったみたいな勢い任せの告白をしてリタっちと結ばれるんだけど、そんなこと今の俺はわかんない。

この散らかり放題の部屋から発掘した手鏡を持って「器用ね、あんた」って笑ってるリタっちを見れて喜んで、冷めた珈琲を一気に飲んで変なことを口走らないうちに家を出た。